CBTと国試の相関はどこまで本当か|よく引かれる数字の出典と、いまの基準での読み替え方
目次
CBT(共用試験)の成績と医師国家試験の結果には、正の相関があると報告されています。ただし、ネット上で繰り返し引かれる「基準に届かなかった学生の国家試験失敗率は23.6%」という数字は、2015年に発表された1本の研究に由来します。その研究が使った合格ラインはIRT43で、いまの到達基準であるIRT標準スコア396とは別のものさしです。相関そのものは否定されていませんが、自分のスコアに当てはめる前に補正しておくべきずれが3つあります。順に確認します。[1],[2]
よく引かれる「23.6%」は何の数字か
出典は2015年発表の解析1本
解説記事で見かける「2.3%・3.8%・26.4%・23.6%」という4つの数字は、いずれも中谷晴昭「日本の医学教育の現状と医師国家試験」(医学教育 2015年46巻1号)に載ったものです。実際、医学生道場の解説は4数字をそのまま並べて出典に同論文を挙げており、メディックメディアの解説も同論文を参考文献として23.6%と3.8%を引いています。9つの大学を抽出し、過去5年間・4,339名の卒業医学生を解析した結果として、同論文は次の内容を報告しています。[1]
- CBTの合格者(IRT43以上)……留年率(卒業失敗者含む)2.3%、国家試験失敗率3.8%
- IRT43に満たない学生……留年率26.4%、国家試験失敗率23.6%
同じ論文には「いくつかの大学での検討によると、医師国家試験成績とCBTのIRT値の間には良い相関関係が存在する」とも書かれています。別々のサイトで同じ数字を見ると独立した根拠が複数あるように感じますが、少なくとも本記事が確認した2件は、出典をたどるとどちらもこの論文に行き着きます。[1],[7],[6]
「相関係数0.68」は1大学のデータ
同じ論文には相関係数も載っています。図2の説明として「某大学における共用試験CBTのIRT値と卒業時受験した医師国家試験点数の相関関係。相関係数0.68で良好な相関関係を示す」と書かれており、よく引用される0.68はこの図に由来します。押さえておきたいのは、これが1つの大学のデータであり、対象人数も示されていないという点です。全国の受験者を対象に算出された値ではありません。[1]
同じ論文は「臨床実習の成績とは相関しなかった」とも書いている
見落とされがちですが、この論文にはもう一つの結果が並んでいます。臨床実習を点数化して臨床実習の成績とCBTの成績の相関を調べたところ、「相関関係は存在しなかった」と明記されているのです。CBTのスコアは筆記試験の成績をある程度予測するが、実習で発揮される能力とは別物だった——引用されるのは前半だけですが、論文が示しているのはこの対比を含めた姿です。[1]
「失敗率」は一発合格率とは別の指標
注意したいのは、この23.6%が「国家試験失敗率」と呼ばれている点です。論文はこの指標の定義(どの期間の、何回目までの受験を数えたのか)を書いていません。特定の年の国試の合格率とは別の指標である以上、「CBTで基準を割ると4人に1人が国試に落ちる」と読むのは正確ではありません。母集団についても、過去5年間の卒業医学生4,339名とあるだけで、解析対象の年度は明記されていません。[1]
いまの自分に当てはめる前に補正すべき3点
(1) ものさしが違う:IRT43とIRT標準スコア396
中谷2015が使った閾値はIRT43です。現在CATO(医療系大学間共用試験実施評価機構)が用いるIRT標準スコアは、基準集団の成績が平均500・標準偏差100の正規分布になるように計算した値で、到達基準は396と定められています。43と396は同じ尺度の数字ではないため、いまの成績表に書かれた値をそのまま2015年の研究の閾値と比べることはできません。[2],[1]
なお、2022年度までの最低合格基準であったIRT標準スコア359については、中谷の閾値に相当する水準として換算している解説もあります。当時の基準は集団の平均から一定の幅を下げた位置に置かれており、この対応づけ自体は不自然ではありません。問題は換算の可否ではなく、次の(2)です。[6],[1]
(2) 合格ラインそのものが上がった:359から396へ
2022年度までは最低合格基準としてIRT標準スコア359が示され、それをもとに各大学が独自の合格ラインを設定していたとされています(この359という数値はCATOの現行の公開資料には出てこず、教材メーカーの解説で確認しました)。共用試験の公的化に伴い、2023年度から全国統一の到達基準としてIRT標準スコア396が定められています。基準は各大学から集まった委員がBookmark法という基準設定法で検討して決めたもので、再試験の到達基準も同じ396です。[6],[2]
ここが重要な点です。「基準を割った人の23.6%」も「基準を満たした人の3.8%」も、396というラインで切り直した数字ではありません。396で群を分け直した集計は公表されておらず、自分がどちらの群に相当するのかを当時の記述から読み取ることはできません。なお、到達基準に届かなかった場合は再試験を1回受けられます。再試験の会場は自大学とは限らず各大学の判断によるとされており、進級の扱いは在籍校の規程によります。実際の日程と扱いは所属大学の案内で確認してください。[2],[1],[6]
(3) 国試の中身が変わり、相関は弱まる傾向が報告されている
国試の側も止まっていません。医師国家試験改善検討部会の提言は数年に一度行われ、2014年の提言(報告書は2015年)では臨床実地問題に重点を置く方針が示されました。基本的な知識はCBTで担保されている前提に立ち、国試では臨床実習で得た経験を評価する方向へ寄せる、という役割分担です。問われる力が変われば、2つの試験の成績の重なり方も変わります。[3]
この変化を実際に観測している報告があります。久留米大学医学部の医学教育ニュース(第63号・2021年7月7日発行)で、同大学の医学教育研究センターは、第105回(2010年度)から第109回(2014年度)まではCBTと国試合格率がほぼ同じように推移していたとしたうえで、「CBTの年度ごとの単なる平均点と国試合格率との相関については、ここ最近は低くなる傾向にあるようだ」と述べています。同時に、それをもってCBTの重要性が下がったわけではなく、依然として国試の大きな予測因子の一つだとも書かれています。1大学の解析ではありますが、相関が過去の水準のまま続いていると考える根拠は、少なくとも見当たりません。[3]
それでもCBTを軽く見られない理由は「必修」にある
ここまでの3点は「昔の数字をそのまま使うな」という話でした。では相関の話は忘れていいかというと、そうではありません。理由は国試の合否判定の形にあります。合格基準は回ごとに設定されますが、第120回では必修問題が200点満点中160点以上、必修を除く一般問題および臨床実地問題が300点満点中224点以上、禁忌肢の選択が3問以下とされました。必修は8割という水準が課される形で、久留米大学の解説はこれを絶対評価と呼んでいます。全体の得点が足りていても必修だけで不合格になり得る、つまり総合力とは独立に効く関門が1つあるということです。[4]
この必修という関門と、CBTで測っているものは相性がよいはずです。必修で問われるのは診療の基本にあたる知識で、応用問題を解く力よりも、基礎的な事項を取りこぼさずに持っているかが効きます。CBTが測っている性質と重なります。裏づけとして、久留米大学医学部の医学教育研究センターは必修得点率の予測の難しさに触れたうえで、「その中でもCBTとの相関でみると、卒業試験に負けず劣らずの相関となる(卒業試験よりも部分的にはむしろ優れている)」と述べています。1大学での観察ではありますが、6年次の卒業試験より前の時点の指標が必修の予測に効きうる、という点は注目に値します。[3],[4]
読み替えると、CBTのスコアは「国試に受かるか」の予言ではなく、「必修で崩れない基礎知識があるか」を早い段階で映す指標として見るほうが実態に近い、ということです。CBTが振るわなかった人にとっては、総合力より先に基礎の穴を埋めるべきだという示唆になります。必修そのものの対策は医師国家試験の必修対策にまとめています。
自分のスコアはどう読めばいいか
現実的な読み方は3段階です。第一に、396に届いているかどうか。臨床実習に進めるのはCBTとOSCEの両方の到達基準を同一年度内にクリアした場合なので、396はそのうちの一方の条件です。相関の話とは別次元の必須条件だと考えてください。届かなかった場合の手順はCBTに落ちたらどうなる?にまとめています。[2]
第二に、集団の中での位置。ただし、受験者全体の平均スコアや得点率をCATOが公表している資料は、CATO公式サイトの公開資料を確認した範囲では見つけられませんでした。解説記事に平均値が載っていることはありますが、出所をたどれない数値を自分の位置づけの基準にするのは勧めません。大学から返却される成績表の位置づけを、所属大学の説明で確認するほうが確実です。第三に、分野の偏り。ここは出典のある話ではなく編集部の見立てですが、総合スコアが同じでも特定の領域だけ落ちている状態は、必修対策の観点では別物だと考えています。[6]
逆に、やっても意味が薄い読み方もあります。2015年の研究の数字を自分の合否確率として計算し直すこと、そして「CBTが良かったから国試は大丈夫」と結論することです。前者は基準も母集団も違い、後者は久留米大学が指摘する相関の弱まりと、そもそもCBTから国試まで2年近く空くという事実に反します。CBTは多くの大学で4年生の8〜2月に実施され、国試は6年生の2月です(第121回は令和9年2月6日・7日)。[3],[1],[6],[5]
CBTの知識を国試まで残すには
CBTと国試の間には、臨床実習を挟んで約2年の空白があります。相関がどれだけあっても、4年生で覚えた内容を6年生まで保持していなければ意味がありません。ここで効くのは新しい教材を足すことではなく、一度覚えた知識に思い出す機会を作ることです。間隔を空けて思い出す復習(間隔反復)の考え方は医学生のための間隔反復入門にまとめています。手作業で期日を管理すると続かないので、仕組みに任せるのが現実的です。
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無料ではじめるよくある質問
CBTと国試の相関係数はいくつですか?
よく引かれる「0.68」は、中谷(医学教育 2015)の図2に載っている値です。ただし同図の説明にあるとおり、これは「某大学における」CBTのIRT値と卒業時に受験した国試点数の相関係数で、1大学のデータです。CATOと厚生労働省の公開資料を確認した範囲では、現行の制度下で継続的に算出・公表されている相関係数は見つけられませんでした。0.68を全国共通の定数のように扱うのは避けたほうが無難です。[1]
CBTの成績が悪いと国試に落ちますか?
落ちると決まるわけではありません。ただし「23.6%」を裏返して安心材料にするのも勧めません。この指標は論文が定義を書いておらず、合否確率としては表からも裏からも読めないからです。しかも基準は当時のもので、現行の396とは異なります。確実に言えるのは、CBTが振るわなかったことは基礎知識に穴がある可能性を示す早いサインだ、という点だけです。[1],[2]
CBTで高得点なら国試対策は後回しでいいですか?
おすすめしません。国試は2015年の報告書以降、臨床実地問題に重点が置かれる方向に変わっており、CBTと問われる力が分かれてきています。久留米大学の医学教育研究センターは、年度平均レベルでの相関が弱まる傾向にあると自学の解析をもとに述べています。CBTの貯金は基礎知識の土台としては有効ですが、そのまま国試の得点にはなりません。[3]
IRT359と396はどちらが正しいのですか?
現行は396です。359は2022年度までの最低合格基準で、当時は各大学がこれをもとに独自の合格ラインを設定していました。2023年度の公的化に伴い、全国統一の到達基準として396が定められています。ネット上には両方の数字が残っているため、更新日の古い記事を現行基準と取り違えないでください。[2],[6]
まとめ
CBTと国試の相関としてよく引かれる4つの数字は、2015年発表の解析1本に由来します。相関の存在は否定されていませんが、閾値のものさしが違うこと、合格ラインが359から396へ上がったこと、国試側が臨床実地重視へ変わり、年度平均レベルの相関が弱まる傾向にあると久留米大学が報告していること、の3点を踏まえないと自分の数字としては読めません。実務的には、396という制度上の線を確実に越えたうえで、必修で崩れない基礎知識をCBTから国試まで保持し続けることが要点です。試験の仕組みと勉強法の全体像は医学生のCBT勉強法、得点率の目安はCBTで9割を取る勉強法にまとめています。[1],[2],[3]
出典
- 1.一次資料日本医学教育学会(医学教育)「中谷晴昭「日本の医学教育の現状と医師国家試験」医学教育 2015年46巻1号 14-17頁(特集「医師国家試験を考える」の記事。原著論文ではなく、解析の方法・群別人数・失敗率の定義は記載なし)」 jstage.jst.go.jp(2026-08-01 取得)
- 2.一次資料医療系大学間共用試験実施評価機構(CATO)「令和5年度からの臨床実習前共用試験の合格判定について(令和5年6月20日)」 cato.or.jp(2026-08-01 取得)
- 3.久留米大学医学部「医学教育ニュース 第63号(2021年7月7日発行)所収 柏木孝仁(医学教育研究センター)「共用試験CBTと医師国家試験との関係」。相関係数・対象人数の提示はなし」 kurume-u.ac.jp(2026-08-01 取得)
- 4.一次資料厚生労働省「第120回医師国家試験の合格発表について(合格基準・合格率)」 mhlw.go.jp(2026-08-01 取得)
- 5.一次資料厚生労働省「医師国家試験の施行について(第121回・試験期日 令和9年2月6日・7日)」 mhlw.go.jp(2026-08-01 取得)
- 6.メディックメディア(INFORMA)「CBT(医学部)基本情報〜合格基準・出題範囲・出題形式は?」 informa.medilink-study.com(2026-08-01 取得)
- 7.医学生道場「【CBT 医学部】必見!共用試験CBTの勉強法、対策、勉強スケジュールを紹介!(IRTと医師国家試験合格の相関・出典として中谷2015を明示)」 igakuseidojo.com(2026-08-01 取得)
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