医師のChatGPT活用法|患者情報の線引きは、院内の規程で決まる
目次
医師の用途は、医療文書の下書き・患者説明の言い換え・文献の要約に集まります。迷うのは線引きのほうです。よく言われる「患者情報は入れない」は結論として正しく、その根拠は生成AI を名指しした規範ではなく個人情報保護法です。施設の規程はそれを現場に落とします。
何に使われているか
用途はだいたい次に集まります。どれも文章を作る作業で、医学的な判断とは別です。
- 診療情報提供書や退院時サマリーの構成案と下書き
- 患者に渡す説明を、専門用語の少ない言い方に直す
- 英語の論文や長い資料の要点を先に把握する
- スタッフ向けの手順書や、院内発表の構成を組む
判断を任せる使い方は、出力の正しさを自分で確かめられる範囲に留まります。文章の形を整える作業と、内容の正しさを決める作業は分けて考えます。
臨床向けに作られた「医療従事者向け ChatGPT」もありますが、対象は米国を拠点とする有資格者で、認証は米国の NPI で行われます。日本からは使えません。聞き方の作法はChatGPT の医学プロンプトにまとめています。[1]
線引きの根拠はどこに書かれているか
医師が実務で当たる公的な規範は2つです。厚生労働省の医療情報システムの安全管理に関するガイドラインと、個人情報保護委員会の医療・介護関係事業者向けガイダンスです。[2],[3]
厚労省のガイドラインは令和8年6月に第7.0版へ改定されました。概説編・経営管理編・企画管理編・システム運用編・保守委託機関編の5編がありますが、5編を通して生成AI という語は一度も出てきません。[2]
改定のパブリックコメントでは、AI はガイドライン本体外の論点として整理されています。7.1版へ持ち越された課題は、医療機器の二要素認証と、国内法の執行に関する規制の2つです。[2]
個人情報保護委員会のガイダンスも同じです。令和8年4月の改定版と、その Q&A のどちらにも、生成AI という語は出てきません。[3]
病歴は要配慮個人情報にあたる
では何が根拠かというと、個人情報保護法です。法第2条第3項は要配慮個人情報を定義していて、そこに病歴が挙げられています。[3]
ガイダンスは「要配慮個人情報の取得や個人データの第三者提供には、原則として本人同意が必要である」としています。要配慮個人情報については、オプトアウトによる第三者提供が認められていないとも注意しています。つまり患者の情報を外部のサービスへ出せるのは、本人の同意があるか、施設が委託として契約し管理している場合です。
実務で確かめる順番
ガイドラインやガイダンスに生成AI の記述が無くても、法はそのまま適用されます。施設の規程は、法の運用を自分の現場で具体化します。順番に確かめます。
- 自分の施設に、生成AI の利用に関する取り決めがあるか
- 院内で承認された環境があるか。あるなら、その中で何を扱ってよいか
- 承認された環境が無い場合に、どこまで許されるか
- そもそも患者を特定できる情報を入れずに済ませられないか
学会が個別に指針を出していることもあります。日本内科学会は J-OSLER に登録する文書について遵守事項を示していて、内容はJ-OSLER で生成AIを使う条件にまとめました。Claude のプランごとに会話が学習に使われるかどうかは医師のClaude活用にあります。
確かめる時間のほうが長い
使うこと自体より、出てきた答えを確かめるほうに時間がかかります。事実でない出力も文章としては自然に出るので、読んで気づくとは限りません。下書きとして使うぶんには速くなりますが、内容の責任は書いた側に残ります。
文献の要約については、出典が付く形で読むほうが確かめが速く済みます。AI で文献を探すときの確かめ方は、AI で文献検索するならにあります。
よくある質問
院内に規程が無い場合はどうしますか
規程ができるまでは、患者の情報そのものを外部のサービスに入れません。使えるのは患者情報を含まない作業だけで、文献の要約や言い回しの型づくりはそのまま進みます。迷うときは施設の情報管理の担当に相談します。
年代や病日に置き換えれば入れてよいですか
それだけでは足りません。年代化や病日化は、法が定める仮名加工情報や匿名加工情報の加工にはあたりません。施設の診療録と照合すれば特定できるので、個人データのままです。[3]
厚労省のガイドラインは何版が最新ですか
第7.0版です。令和8年6月に改定されました。第6.0版を前提にした解説を見かけたときは、版を確かめてください。[2]
医学生の使い方と何が違いますか
扱う情報が違います。学生は自分の学習に使いますが、医師は患者の情報に触れます。学習側の使い方はChatGPTを医学生の勉強にどう使うかにまとめました。
まとめ
用途は文書の下書きと言い換えと要約に集まります。公式が出している例プロンプトの形はChatGPT の医学プロンプトにまとめています。線引きについては、厚労省のガイドライン第7.0版にも個人情報保護委員会のガイダンスにも生成AI の記述が無く、実質の線を引くのは施設の規程です。まず院内に取り決めがあるかを確かめ、無ければ、承認された環境ができるまで患者の情報は扱いません。
出典
- 1.一次資料OpenAI「医療従事者向け ChatGPT(対象者・認証・よくある質問)」 chatgpt.com(2026-09-25 取得)
- 2.一次資料厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(令和8年6月)」 mhlw.go.jp(2026-09-08 取得)
- 3.一次資料個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(令和8年4月改定)」 ppc.go.jp(2026-09-08 取得)
本記事はiwor 編集部が作成し、医師が監修しています。掲載内容は一般的な学習目的の情報であり、 診断・治療の最終判断は必ず一次資料・指導医にご確認ください。 編集方針と監修体制