症例報告の抄録の書き方|800字の半分は臨床経過、「文献的考察を加えて報告する」は書かない
目次
結論から書くと、症例報告の抄録に書く中身は、背景・臨床経過・考察・結論の4つです。項目名と項目の数は学会が決めていて、3項立ての学会も5項立ての学会もあります。字数も学会ごとに違い、この記事で挙げる5つの学会の指定では、全角345字から1,800字まで開きがありました。日本整形外傷学会が公開している全角800字のテンプレートには公式の例文が付いていて、節ごとに数えると臨床経過が46.8%、考察が25.3%、背景が13.6%、結論が11.1%です。つまり字数の半分は経過の記述に使います。逆に、書かないほうがよい一文もはっきりしています。「文献的考察を加えて報告する」は、日本内科学会の東海地方会が募集要項で名指しして避けるよう求めている書き方です。[1],[3],[4],[5],[6]
書く中身は4つ、項目名は学会が決める(【方法】【結果】は使わない)
症例報告の抄録は、研究発表の抄録とテンプレートが別です。日本集中治療医学会は、構造化抄録の一般的な方式として IMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)を挙げたうえで、「研究成果発表」を【目的】【方法】【結果】【結論】、「症例・経験・その他報告」を【背景(目的)】【臨床経過/活動内容など】【結論】と、はっきり分けて示しています。日本整形外傷学会も、症例報告のテンプレートと臨床研究のテンプレートを別に配っています。症例報告のテンプレートに【方法】【結果】はありません。[2],[1]
項目名が違っても、書く中身は次の4つです。日本整形外傷学会のテンプレートと、臨床神経学に載った症例報告の書き方の解説から。[1],[7],[8]
- 【背景】既知のことを述べてから、未知のことを述べる。日本整形外傷学会のテンプレートはこの順を指定しています。疾患の一般論を網羅的に書くのは、臨床神経学の解説が名指しで避けるよう求めている書き方です
- 【臨床経過】年齢と性別、際立った臨床的特徴、診断、治療と経過。経過は日付順に書き、細部は落とします。診断と鑑別に必要な検査所見を載せ、重要な陰性所見も入れます。一般的でない検査値には基準値も添えます
- 【考察】まず症例の際立った特徴と診断の根拠を短く述べ、過去の報告との違いを書き、そこから何が学べるかを示します。1例から取り出す「学ぶ点」は1つか2つで、多いと読者が混乱します
- 【結論】報告の臨床的意義を述べます。1例の結果を疾患全体に広げる書き方や、確固たる推奨は避けます
何字で書くか:募集要項によって3倍以上ちがう
「800字くらい」と覚えて書き始めると、登録画面で入らないことがあります。各学会が公開している募集要項を並べると、次のようにばらついています。募集要項は回ごとに変わるので、回次が分かるものは併記しました。
- 日本循環器学会 近畿地方会(2023年7月開催回の要項):抄録本文は全角345字以内。この字数を超えると登録できないと明記されています
- 日本整形外傷学会:症例報告テンプレートは全角800文字
- 日本内科学会 関東地方会・東海地方会:タイトルと演者・共同演者の氏名と所属名と抄録本文を合わせて26文字×27行。つまり枠は702字ぶんで、共著者と施設が多いほど本文に使える字数が減ります
- 日本運動器理学療法学会(理学療法の学会・第5回学術集会の要項):研究報告は1,200字以内、症例報告は1,800字以内。構造化した項目名もすべて字数に換算すると明記されています
同じ「症例報告の抄録」でも345字と1,800字では書ける内容が別物です。345字なら考察は1〜2文、経過は診断に直結する所見だけになります。だから書き始める前に見るのは、字数と、項目が指定されているかどうかの2点です。演者名と所属が同じ枠に入る形式なら、共著者を確定させてから本文の分量を決めます。[3],[4],[5]
800字の内訳:半分は臨床経過
字数がわかっても、どの節に何字使うかは別の問題です。日本整形外傷学会のテンプレートには症例報告の完成例(胸骨骨折後偽関節の1例)が載っているので、節ごとに文字を数えました。空白と改行を除いた本文は756字、【】の見出しを足して793字で、上限の800字にちょうど収まっています。[1]
- 【背景】103字(13.6%)
- 【臨床経過】354字(46.8%)
- 【考察】191字(25.3%)
- 【結論】84字(11.1%)
- 【研究デザイン】5字・【報告の新規性】19字(合わせて3.2%)
この配分は、字数が足りなくなったときの動かし方になります。背景が長くなっているなら疾患の一般論を削って考察に回し、臨床経過が短いなら診断の根拠になった所見が入っているかを見ます。345字の学会に出すときも比率はそのまま使えて、経過160字・考察90字・背景50字・結論40字が出発点になります。
iwor なら、学会の字数の枠で数えながら抄録を書けます。
演題登録と同じ全角換算(全角1字・半角0.5字)で数えるので、Word で数えた字数とのずれが起きません。背景・臨床経過・考察・結論の目安字数も、この記事の実測比率から出ます。iwor は医師のためのワークスペースで、無料ではじめられます。
抄録を書いてみる「何が新しいのか」は、学会が用意した分類から選べる
「新規性を明確に」と言われても、自分の症例の新規性を白紙から言葉にするのは難しい作業です。実は、学会側が分類を公開しています。日本整形外傷学会のテンプレートは【報告の新規性】という欄を持ち、選択肢として次の6つを挙げています。[1]
- (比較的)まれな有害事象・副作用
- 予測できなかったあるいは新規の臨床経過
- (比較的)新しい診断法・治療法
- 2つの疾患の間の関連性
- 病態生理の発見あるいは推察
- その他
日本集中治療医学会も、症例・経験報告の価値として、非典型的な臨床経過の報告、新しい診断方法の報告、新しいもしくは稀な有害事象の報告、アウトカムを改善した介入の報告、臨床ケアを改善した報告、教育(臨床提示)の6つを挙げています。2つの学会に共通するのは、有害事象、非典型的な経過、新しい診断法の3つです。集中治療医学会だけが挙げているのは、アウトカムや臨床ケアの改善と教育で、これは「珍しくない症例でも報告になりうる」という道を残しています。[2],[1]
使い方は、自分の症例がどれに当たるかを1つ選び、その語をそのまま【背景】の最後の一文に置くことです。どれにも当てはまらないと感じるなら、まだ報告の形になっていないというサインなので、文献を検索し直して「既知のこと」の輪郭をはっきりさせるほうが早く進みます。週刊医学界新聞の連載は、症例報告を診断に苦慮した症例・珍しい症例・治療や合併症に難渋した症例の3つに大別したうえで、それぞれ主張すべき点が違うとしています。伝えたいことは1つに絞るのが原則です。[9],[7]
抄録に書かない一文
学会が募集要項で避けるよう求めている決まり文句があります。「文献的考察を加えて報告する」「若干の考察を加えて報告する」は、日本内科学会の東海地方会が名指しして、そうせずに抄録本文だけで発表内容全体がわかるようにまとめるよう求めています。関東地方会が挙げているのは「文献学的考察を加えて報告する」で、発表予告のような形にせず、後日データベースで検索されたときにも役立つ記載にするよう書いています。抄録は採用後にデータベースとして公開されるため、当日その場にいない読者が読むことが前提です。[4],[3]
臨床神経学の解説は、避けるべき表現として「稀で貴重と考えられたので報告した」と「世界初」の主張の2つを挙げ、序論と要旨の「文献的考察を加えて報告する」も不要としています。「世界初」を避ける理由は、自分の文献検索で世界中の報告を網羅したと言い切れないからです。稀であること自体も理由になりません。同じ解説は、報告に値する症例には明確な「学ぶ点」が必要だとしています。稀さを書く紙幅があるなら、その症例から何が学べるかを1文足すほうが通ります。[7]
書き方以前に落ちる条件
内容の良し悪しと関係なく不採用になる条件が、募集要項に書かれていることがあります。日本内科学会の関東地方会は、応募する症例が薬剤や医療機器の禁忌・適応外使用である場合、患者からインフォームド・コンセントを取る、施設の倫理委員会を通すなどの倫理的配慮のもとに実施されていることを抄録本文に必ず明記するよう求め、記載がない場合は不採用とすると書いています。字数が厳しいときに真っ先に削りたくなる一文ですが、ここは削れません。[3]
患者情報の書き方にも制限があります。関東地方会と東海地方会は、抄録内に患者氏名・イニシャル、患者ID、患者住所(都道府県までは可)、特定の月日を記載しないよう求めています。どちらの要項も、特定の月日については「○月初旬」「第○病日」などとするよう例示しています。経過は「20XX年5月3日に」ではなく「第3病日に」と書くことになります。これは発表資料でも同じで、症例報告の経過表の作り方で横軸を第◯病日にするのと同じ理由です。日付を病日に置き換えると字数も減ります。[3],[4]
関東地方会は本文に必ず【考察】を含めるよう、東海地方会は【考察】と【結論】の両方を含めるよう求めています。臨床神経学の解説は、厚生労働省の指針を引いて、通常の診療による症例報告は倫理委員会への申請は不要であり、通常の診療から逸脱する場合や施設・雑誌の規定によっては必要になるとしています。同じ解説は、症例報告では同意書を取得するとしています。自施設の規定は必ず確認してください。[3],[4],[7]
評者は抄録のどこを見ているか
米国内科学会(ACP)日本支部は、症例報告の抄録作成ガイドに加えて、過去の年次総会で高評価だった症例報告と、それに対する評者2名のコメントを公開しています。高評価だった抄録に対してさえ、2名とも直しどころを挙げています。一方の評者は、初診時の像を明確にする陰性所見(頸部運動時痛や嚥下痛の有無、先行する感冒症状の有無など)があれば鑑別に役立つとしたうえで、それを入れるなら体格と MRI の記述が相対的に分量過多ではないか、と参考意見として書いています。もう1名の評者は、診断根拠として挙げた所見が鑑別疾患でも見られるものではないかを問い、より重篤な疾患をどう否定したかの議論が加わると診断の確からしさが高まるとしています。[8]
陰性所見を足すよう求めた評者の指摘は、「足すなら別のところを削れ」という形になっています。決まった字数の中で直すことになるので、足す候補と削る候補を同時に持っておくと直しが速くなります。ACP のガイドはタイトルについても、長いタイトルより簡潔なタイトルが好ましく、重要性や新奇性が伝わるとよいとしています。評者は実際に、診断の難しさが伝わるタイトルへの言い換えを例示しています。[8]
800字の型(そのまま埋められる形)
上の実測配分を字数の目安にした型です。学会の指定字数に合わせて、各節を同じ比率で伸縮させてください。臨床神経学の解説は、要旨を書くのは最後がよいとしています。本文(発表原稿やスライド)を先に組んでから抄録に落とすと、削る判断がしやすくなります。[7],[1]
- 【背景】100字前後・2〜3文。1文目=この疾患や治療について一般に知られていること。2文目=しかし◯◯についての報告はない(未知のこと)。3文目=選んだ新規性の分類の語を入れて、今回何を報告するのかを書く
- 【臨床経過】350字前後。年代と性別 → 主訴と経過(第◯病日で書く)→ 診断の決め手になった検査所見と、鑑別を外した重要な陰性所見 → 治療 → 転帰。一般的でない検査値には基準値を添える
- 【考察】190字前後。1文目=この症例の際立った特徴と診断の根拠。2〜3文目=過去の報告との違い。最後=学ぶ点を1つか2つだけ
- 【結論】80字前後・1〜2文。この報告から得られる臨床的意義。1例から疾患全体への一般化と、確固たる推奨は書かない
- 禁忌・適応外使用を含む症例なら、倫理的配慮を明記する一文を必ず残す
抄録が通ったあと
抄録が採択されたら、次は発表資料です。抄録の4つの部分は、そのままスライドの並びになります。【背景】が背景の枚、【臨床経過】が現病歴・検査・経過表の枚、【考察】が考察の枚、【結論】が結語の枚です。何を何枚にするかは学会発表のスライドは何枚かに発表時間別の目安を、枚の並びと自分の科で足す枚は症例報告のスライドのテンプレートに、1枚目か2枚目に置く利益相反の書き方はCOI 開示スライドの書き方と例にまとめています。ポスター発表なら医学の学会ポスターのテンプレートです。
iwor では、症例報告の流れが枚として並んだ型からスライドを作れます。抄録の【臨床経過】に書いた経過は、経過表として作って保存すると、臨床経過の枚に埋め込めます。経過表・発表スライド・学会ポスターの見本は発表資料の作り方にまとめてあり、登録しなくても中身を見られます。なお iwor に抄録そのものを書く機能はありません。抄録は募集要項の入力欄に直接書くのが確実です。
よくある質問
抄録はいつ書きますか?
最後です。臨床神経学の解説は、要旨を執筆するのは最後とされていると書いています。先に症例のまとめと考察を作り、そこから削って抄録の字数に落とすと、経過と考察の対応が崩れません。ただし締切は抄録のほうが先に来ます。週刊医学界新聞の連載は、症例報告でも情報収集に1か月はかかるとしたうえで、上級医の確認を受ける若手は先手で準備するよう勧めています。逆算して、締切の1か月前には症例と文献を揃えておく形になります。[7],[9]
症例報告の抄録に【方法】【結果】は要りますか?
要りません。日本集中治療医学会は、症例・経験報告を【背景(目的)】【臨床経過/活動内容など】【結論】の3項立てとし、【目的】【方法】【結果】【結論】は研究成果発表のものとして分けています。ただし学会が指定した項目名がある場合はそちらが優先です。たとえば日本運動器理学療法学会は症例報告を【症例紹介】【評価とリーズニング】【介入内容と結果】【結論】【倫理的配慮、説明と同意】に構造化するよう指定していて、勝手な変更をしないよう求めています。まず募集要項に項目名の指定があるかを見てください。[2],[6]
「珍しい症例」というだけでは通りませんか?
珍しさだけを理由にするのは、臨床神経学の解説が避けるべき表現として挙げている書き方です。同じ解説は、症例報告は稀さのみを重視するべきではなく、報告に値する症例には明確な「学ぶ点」が必要だとしています。抜け道ではなく正攻法として使えるのが、日本集中治療医学会が挙げている「アウトカムを改善した介入」「臨床ケアを改善した報告」「教育」の枠です。よくある疾患でも、診断が遅れた経路が他施設でも起こりうるものなら、そこが学ぶ点になります。【背景】の未知のことを「この疾患は稀である」ではなく「この経過をたどった報告はない」と書き換えるところから直すと早いです。[7],[2]
字数が足りません。何から削りますか?
順番は、疾患の一般論、主題と関係の薄い検査値、体格や既往歴の細部、日付表記です。臨床神経学の解説は、序論と考察に長々と一般論を書く間違いが多いとしており、削っても報告の中身は減りません。日付を「第◯病日」に置き換えるのは字数も減って患者情報の制限にも合います。逆に削ってはいけないのは、診断の決め手になった所見、鑑別を外した重要な陰性所見、学ぶ点の1文、そして禁忌・適応外使用がある場合の倫理的配慮の一文です。最後の1つは、日本内科学会の関東地方会では記載がなければ不採用と明記されています。[7],[3]
抄録の例文をそのまま流用してもいいですか?
項目立てと文の役割は真似してよく、文言は自分の症例の言葉で書きます。日本整形外傷学会はテンプレートと完成例を公開し、できうる限りテンプレートに沿って作成するよう求めています。真似する対象は「1文目で既知のことを書き、2文目で未知のことを書く」といった各文の役割です。他人の抄録の文をそのまま持ってくるのは盗用にあたります。臨床神経学の解説も、二重投稿と盗用は厳禁であり、序論や考察では盗用にならないように引用するとしています。[1],[7]
まとめ
症例報告の抄録に書く中身は背景・臨床経過・考察・結論の4つで、【方法】【結果】は使いません。項目名と項目の数は学会が決めます。最初に見るのは字数と項目指定の2点で、指定は全角345字から1,800字まで開きがあります。800字なら経過に350字、考察に190字、背景に100字、結論に80字が出発点です。新規性は学会が公開している分類から1つ選び、その語を【背景】の最後に置きます。「文献的考察を加えて報告する」「稀で貴重と考えられたので報告した」「世界初」は書きません。禁忌・適応外使用の症例では、倫理的配慮の一文を最後まで残してください。[1],[4],[7],[3]
出典
- 1.一次資料一般社団法人 日本整形外傷学会「会員必見 抄録を書く前に読んでいただく注意点(研究デザインごとの抄録テンプレートと例)」 jsfr.jp(2026-08-18 取得)
- 2.一次資料一般社団法人 日本集中治療医学会「【構造化抄録の書き方】(2022年6月3日)」 jsicm.org(2026-08-18 取得)
- 3.一次資料一般社団法人 日本内科学会「関東地方会演題募集要項」 naika.or.jp(2026-08-18 取得)
- 4.一次資料一般社団法人 日本内科学会「東海地方会演題登録(抄録作成・登録可能な文字数)」 naika.or.jp(2026-08-18 取得)
- 5.一次資料日本循環器学会 近畿支部「演題募集要項(演題分類・登録時の注意)」 jcs-kinki.org(2026-08-18 取得)
- 6.一次資料日本理学療法学会連合(日本運動器理学療法学会)「抄録入力時の注意(抄録の体裁・抄録文字数等)」 jspt.or.jp(2026-08-18 取得)
- 7.一次資料日本神経学会(臨床神経学)「平賀陽之. 症例報告の効果的な書き方. 臨床神経学 2023;63(5):305-313」 jstage.jst.go.jp(2026-08-18 取得)
- 8.一次資料米国内科学会(ACP)日本支部「症例報告の抄録作成ガイド(高評価であった症例報告と査読者コメント)」 acpjapan.org(2026-08-18 取得)
- 9.医学書院(週刊医学界新聞)「後藤徹. 絶対に失敗しない学会発表のコツ [第1回] 抄録の作り方のHow to. 週刊医学界新聞 第3440号(2021年10月11日)」 igaku-shoin.co.jp(2026-08-18 取得)
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